自分で立ち上がりたくなる場

 

 

 

日本にはいま、「ひきこもり」状態にある人が100万人以上おり、その半数強が40歳以上の方だとされています。これは、ひきこもりの状態が長年続いている人が多く、そこからなかなか抜け出せないことを示しています。(内閣府調査)

 

研究者によると、日本社会にまん延する「自己責任」の風潮も一つの要因となって、苦しい思いをしている本人やご家族の元へ支援が届きにくい状態が続いているのが現状のようです。(川北稔・愛知教育大学准教授 https://www.nippon.com/ja/japan-topics/c07401/

 

一方で、こうした状況をなんとか変えていこうとする方々のニュースを目にすることもあります。ただその取り組みは、個々人の類稀なる努力や献身によって、何とか成り立っている場合が多いようにも思います。

 

今月は、そうした活動を30年以上にわたって続けられてきた方のことばをご紹介します。

 

PDFはこちら⇒No.196

 

 

 

 

 

子どもは真っすぐ伸びたがっている

 

引きこもり・自殺願望・家庭内暴力・精神障害…さまざまな問題を抱え、生きづらい若者たちに寄り添う活動を三十年以上続けてきた、藤 大慶(ふじ だいけい)さんという浄土真宗僧侶が京都におられます。

 

二十年前、京都府では唯一となる児童心理治療施設「るんびに学園」を開校。現在は就学年齢の子だけでなく、社会に出た後に挫折した人も帰ってこられる場を作りたいと、「アショカランド」という新たな施設の開園に奔走されています。

 

藤さんが長年、立ち止まることなく活動してきた中心にあるのは、「どんな人も真っすぐに伸びたがっている。そうなれる力を持っている」という思いでした。

 

 

 

子どもが見せてくれた姿

『みんな真っすぐ伸びたがっている』

藤大慶 著(あうん社)より

 

死ぬことばかりを考えていたひょろひょろのY子をスタッフに加えたが、何も出来ない。そこへ自閉症で一言もしゃべらないA子が遅れて参加してきた。

そんなA子に、他のスタッフたちは声をかけていたが、うつむいたままで何も応えない。スタッフたちは手も足も出せず、自分の仕事に逃げていた。

 

これを見ていたY子は、…一日中、付きっきりで声をかけ続けていたのだ。

そして三日目、「A子ちゃんが、しゃべりました!」と嬉しそうに駆け込んできたのだ。

 

この後、二人は徐々に本来の耀きを取り戻し、翌年の「短期るんびに苑」では、スタッフとして見違えるほどの活躍をしてくれた。

 

   ・・・・

 

本来なら温かい家族の中で、誕生前から乳児期・幼児期・少年期にかけて育まれる安心感や自己肯定感、信頼感。この土台の上に動き出す好奇心・学習意欲・冒険心。きちんとした生活習慣や他者への配慮。そして自己の感情のコントロール。これらを遅ればせながら身に付けてもらおうという取り組みだ。

 

これらを言葉で伝える(指示する)ことは出来ない。私たちに出来ることは、…「本人が自分で気付き、自分で立ち上がりたくなる場を創る(用意する)」ことだと思っている。

 

 

 

 

「そのままで大丈夫」の安心

 

子ども達が生きづらさを抱える原因は数多ありますが、藤さんは特に、温かい環境の中で育まれる「安心感」の欠如に注目しています。

「安心感」を得られれば、そこから「自分で立ち上がりたくなる」と。

 

これは、大人にも同じことが言えるのではないでしょうか?

つらくて前を向けないとき、ただ「努力が足りない。がんばれ、がんばれ」と言われるだけでは参ってしまいます。

 

「あなたは受け入れられている、そのままで大丈夫」という安心感を得られたとき、はじめて前を向く気力が湧いてきます。

 

仏法の聴聞は、阿弥陀さまからの「大丈夫」の声を聞き、安心を得られる「場」です。そして再び立ち上がりたくなる「場」でもあるのです。

 

 

 

 

出典

 👉『みんな真っすぐ伸びたがっている』藤大慶 著(あうん社)

 

 

 

 あとがき

 

藤さんの書物を読んでいると、子どもたちに寄り添い・救った話ばかりではなく、救えなかった子どもたちの話も出てきます。

行方不明の子、命を落としてしまった子・・・そうした子に対する悔恨と痛みを抱えながら、前へ前へと進んでいる藤さんの姿には、本当に頭が下がります。

 

お恥ずかしいことですが、正直、私自身はそこまでの力(肉体的・精神的)を持ち合わせていません。ときどき、本当にわずかばかりの寄付をすることで応援させていただくことが、今のところは精いっぱいです。

 

そんな私にできることは、事実を知ろうとすること・関心を持ち続けること、そして、「大丈夫」の声(阿弥陀如来の救い)を地道に伝え続けることしかないと思っています。

 

 

余談ですが「自己責任」という、罪作りな言葉には思うことがたくさんあります。私たちが目指すべきは「自立」の社会であって、決して「自己責任」の社会ではないのではないか…。

参考までに、今から16年前に書いた「今月のことば」も載せております。

 

 

参照「真の自立とは・・・」⇒👉No.003の「ことば」を見る

 

 

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